Nagisa Hirayama INTERVIEW

NAVAROで開催されているオルタナティブなイベントに遊びに来たことがあれば、フロアの最前で楽しそうにステップを踏みながら踊る彼女の姿を見かけたことがあるかもしれない。
デュビア80000ccのライブで盛り上がりすぎによりステップを踏みすぎてしまい転倒、左足を骨折してしまったというアンハッピーなエピソードをもつ彼女=Nagisa Hirayama(以下「なぎー」)はこれまでArt Blakey Fesのフライヤー、NAVAROコンピレーションやyard ratの1stアルバム『fingerpost』のジャケット、mychairbooksのロゴなど、熊本を中心に様々なアートワークを手掛けてきたデザイナー/イラストレーターでもある。
このサイトのロゴを手掛けてくれたのも彼女だ。
デザイナー/イラストレーターとして、そしてフロアから熊本・九州のオルタナティブな音楽シーンと関わり続けてきた彼女にお話しを聞きました。

クラハラ: 小さい頃から絵を描くのは好きだった?

なぎー: 保育園の頃からよく絵を描いてたと思う。小学校の頃の文集を読み返してみたら、将来の夢は4コマ漫画家って書いてあったんだよー(笑)

クラハラ: なぎーが書いた4コマ漫画は読んでみたいな~。

なぎー: 漫画がずっと好きだったから、それまでは漫画みたいなイラストをずっと描いてたんだけど、高校は美術科に進学してそこでは油絵をメインにやってたんだよね。ファインアートも面白いなって思ったのはそのタイミングからかなー。

クラハラ: これまでに影響を受けたような画家や芸術家はいる?

なぎー: 難しいけど・・・洋画家の鴨居玲さんは好き。自分の内面と孤独を作品にし続けてた人で、絵も暗いんだけど・・・前に観にいった展示がすごくて。絵の雰囲気がすごく好き。でも好きな作家とかはどっちかというと漫画家とかデザイナーの方が多いかも。

クラハラ: そうなんだ。例えば?

なぎー: 三好銀!あの人の漫画大好き。それと自分の描くイラストは松本大洋に影響受けてて。他には沙村広明でしょ・・・それと本田って作家さんとか。デザイナーだと服部一成、仲條正義、原研哉とか。特に原研哉は白や余白の使い方がすごく綺麗で、その感覚は結構学んだかも。

クラハラ: 高校の美術科ってどんな雰囲気だった?自分は普通科だったし、全然イメージ出来なくて・・・。

なぎー: 私が通ってた高校は美術科は学年に1クラスしかないし、校舎も普通科とは違う木造の校舎で。他の科の人たちとはたまに体育の授業で一緒になるくらいで、ほとんど会わないんだよ。部活も作品の制作のために美術科美術部ってとこにみんな入らなきゃいけなくて・・・。でも一応掛け持ちは出来たから、私もちょっとだけ写真部に入ってて。私なんで写真部に入ったんだっけ・・・。あっ当時はトイカメラブームだったんだ。ヴィレヴァンブームからのトイカメラブームみたいな(笑) 父親のお古の一眼レフも実家にあったし、それで自分も写真部に入って、学内で展示とかしてた。

クラハラ: 授業は美術の時間がほとんど?

なぎー: そうだねー。最初は一日の半分くらいは美術の授業じゃなかったかな?美術の授業もカテゴリーが分かれてて、油絵とか日本画とかビジュアルデザイン・・・それと彫刻とか。最初はデッサンとか基本的なことをみんなで勉強して、それからそれぞれの分野を選択して分かれていって、最終的には美術の授業ばっかりになるって感じ。

クラハラ: 美術科がある高校に進学することは、当時のなぎーにとって自然な流れだった?

なぎー: そうだったかもしれない。絵を描くのがいいなって、それ以外のことはあんまり考えてなかった。体育は苦手だし、勉強は嫌いじゃないけど、絵を描くのがやっぱり楽しくて。美術科のある学校に入ってちゃんと勉強したかったし、それと地元から離れたくて。そっちの方が大きかったかも。私が受験のタイミングで地元の高校に美術コースが新設されて、親からもそっちに行けよって言われたんだけど・・・。

クラハラ: 地元から離れたかったのはどうして?

なぎー: 私の地元は過疎地域で子供の数も少ないし、保育園の頃からみんな一緒なんだよね。小学校で別々になる子もいたけど、中学校でまたみんな一緒になる。だからずっと同じ顔ぶれなのがなんとなくしんどくて。それに漫画とか自分の好きなことを深く話せる友達が周りにいなかったのもキツくて・・・それなら自分が興味があるところに自分から行けばいいじゃんって思って。だからまず絵が上手くならなきゃって、ずっと絵の練習してた。

クラハラ: その当時から音楽も好きだった?

なぎー: 好きだったねー。でも今と好きなジャンルは全然違って。中学生のときはアジカンが大好きだった。中村佑介のジャケットのイラストも好きだったし。そういえば、高校の入学式の日の夜にアジカンのライブに行ったんだよ。

クラハラ: えっ!?(笑) 熊本に来てたの?

なぎー: そうそう。当時のBe.9に来てたんだよ。今のNAVAROがある場所。高校受験の頃に出たアルバムに先行チケット販売の案内が入ってたから、それに応募したら2枚取れて。だから入学式が終わったら急いで私服に着替えて、友達と合流してアジカンのライブに行って・・・。高校生の頃はまだBATTLE-STAGEもあったし、他にもフジファブリックとか観に行ってた。

クラハラ: めちゃくちゃいい話しだ・・・。高校卒業後は大分の美術系の短大に進学したんだよね。その当時からAT HALLに遊びに行ってた?

なぎー: 短大に入ってからは学費と生活費を自分で稼がなきゃいけなかったから、結構がっつり居酒屋のバイトをしてたんだよね。その居酒屋に週末になるとよく深夜に今から入れますかって電話してから来る団体のお客さんがいて。でもその人たちって顔ぶれもなんかバラバラで、学生っぽくもないし、会社の集まりって感じでもないし・・・。なんの集まりなんだろうって思ってたら、それがAT HALLでイベントが終わったあとに打ち上げに来てたカワムラさんたちで(笑) だから最初にAT HALLの名前を知ったのは、領収書にAT HALLって書いてくださいって言われたとき。

クラハラ: そうなんだ(笑)

なぎー: AT HALLってなんなんだろうって調べてみたら、どうやら変なことをやってるイベントスペースらしいってことはわかったんだけど、でもそのときはまだアンダーグラウンドな音楽が好きなわけじゃなかったから、変な場所なんだなってぐらいにしか思ってなくて。最初にAT HALLに行ったのは、当時知り合った大分の劇団の人から一緒に展示をしないかって誘われて、その会場がAT HALLだったからその時かな。AT HALLは演劇なんかもやってたから、それからよく遊びに行くようになって、どんどん変な音楽が好きになっていって・・・。こんな趣味になったのは絶対カワムラさんのせいだよ(笑) ネネカートのライブも当時から観に行ってたんだっけな・・・もう思い出せないことも増えてきちゃってるなぁ・・・。

クラハラ: これもなんかめっちゃいい話しだ・・・。それから短大を卒業して、熊本に帰って来たんだよね。

なぎー: そうそう。就活もろくにせずに帰って来ちゃったんだけど、せっかく働くなら本屋さんがいいなって本屋への憧れはあったから、最初は長崎書店のバイトに応募したんだけど面接で落ちちゃって・・・。それからは蔦屋書店でしばらくバイトしてた。そういえば色々見返してたら、昔の作品が何枚か出てきたんだよー。結構暗いよね(笑)

クラハラ: これは・・・結構暗いね(笑) でもかっこいいよ。旧NAVAROに遊びに行くようになったのもその頃?

なぎー: 調べてみたら最初に旧NAVAROに遊びにいったイベントは2012年のArt Blakey #26だったみたい。勝井祐二+沼澤尚+辻コースケがゲストで、Doit Scienceも出てて。この日の勝井さんたちのライブは音源になったんだよね。

クラハラ: Doit Scienceと仲良くなったのもこのタイミング?

なぎー: そうそう。たしかライブが終わって煙草吸ってた清田さんとドイさん(共にDoit Science)に話しかけたんじゃなかったかな。

クラハラ: そんな風に色んな人と仲良くなれるのはなぎーのすごいところだよね。

なぎー: いやいや、人見知りもすごいするし・・・。でもすごいライブを観てテンションあがったら勢いで話しかけちゃうかも。当時からマジでお金がなかったから、それからよくArt Blakeyで受付を手伝う代わりにライブを観せてもらうようになって・・・。

クラハラ: 当時のなぎーはよく受付してたよね。


クラハラ: なぎーがこれまで手掛けてきたアートワークの話しを聞いていきたいんだけど、まずはArt Blakey Fesのフライヤーから。

クラハラ: この2018年、2019年、2023年のフライヤーは色を綺麗に使った抽象的なイラストだよね。これにはなぎーのArt Blakey Fesへのイメージが反映されてる?

なぎー: いろんな色が重なったり混ざったりしてるのはArt Blakey Fesのイメージかも。Art Blakey Fesのフライヤーのデザインは清田さんからの指示があったり、逆にこっちからイメージを聞いたりするんだけど、清田さんは「ドカーン!」とかざっくりとしたことしか言わないから、毎年正直困ってて・・・(笑) それに私は人物画をずっと描いてきたから、こういうニュアンスを描くっていうのは私にはかなり難しくて。こういうイメージなんだろうなっていうのはなんとなくわかるんだけど、それを上手く表現できない。悩みながらいろいろ描いてみたけどやっぱりなんかダメで、もういいや、絵の具バン!ってやってみたら意外とこれが評判良かったんだよね。

クラハラ: そうだったんだ。

なぎー: それに作品とデザインの違いみたいなところもあったのかも。

クラハラ: どういうこと?

なぎー: 私が描いてきたような人物画は私自身の作品だけど、こういうフライヤーだとクライアントありきのデザインだから自分の作品を描けばいいってわけでもなくて、自分が好きな様に作品を描いても、それがArt Blakey Fesの表現には繋がらないっていうか。

クラハラ: そっかー。でも2023年のフライヤーは、同じ抽象的なイラストでもこれまでのフライヤーと明らかに違うよね。もっと明確なイメージがあるように感じる。

なぎー: これまではどうやって描いていいかわからなかったら、色バーン!って感じだったけど、この2023年にフライヤーを描いたときはデザイン会社で働き始めてから数年経ってたし、空気感を表現するって感覚がなんとなくわかってきてたのかも。別に色をいっぱい使わなくてもいいのかなって。Art Blakey Fesってオレンジとネイビーのイメージだから、その2色は使いたくて。そこにアクセントになるピンクもいれて、中央は色んなものが集まってカオスみたいになってるぐちゃぐちゃなグレーにしたって感じ。

クラハラ: この2022年のフライヤーも明確にこれまでのイラストと方向性が違うよね。これはNAVAROの喫煙所だよね。

なぎー: これを描いたときは、初めから抽象的なイメージじゃなくてNAVAROの風景を描こうと思ってて。じゃあNAVAROの入り口のとこがいいかなって。この喫煙所の風景って、NAVAROに来た時に階段を下りたら一番最初に目に映る風景でしょ?これからイベントが始まるぞって雰囲気があるのはやっぱりこの風景だし、そこにちょうどみんながいるタイミングで写真を撮らせてもらって、それをそのまま描いたんだよね。

クラハラ: 2020年にコロナ禍が始まって、この2022年のArt Blakey Fesって久しぶりに開催した回なんだよね。そういう意味でもこのフライヤーはグッとくるものがあるよね。でもこの絵はもとになった写真があったんだね。左手前でうなだれてるのはなぎー自身なのかなって思ってたよ。

なぎー:久しぶりのArt Blakey Fesだったし、みんなが集まってるところを描きたかったっていうのはあるかも。左手前にいるのはたしかホナミちゃん(the omelettes)じゃなかったかな・・・? うなだれてるんじゃなくて、たまたまこういう姿勢になってただけだよ(笑) 

クラハラ: このNAVAROコンピレーションのイラストもすごくいいよね。抽象的に描かれてるけど、NAVAROに来たことがある人ならNAVAROのビルの外観だってわかる。

なぎー: これも最初はNAVAROのビルの外観を風景画みたいにリアルに描いてたんだけど、やっぱりさっきの作品とデザインの話しで、これじゃダメだってなって。それからジュンさん(NAVARO、4JC RECORDS、trialerror)と沢山話し合って出来たイラストなんだよね。沢山悩んだけど、一人じゃ描けなかったものだと思う。

クラハラ: これもコロナ禍が始まってみんなが全然会えなかった時期にリリースされた作品だから、このイラストを観たときはマジでグッときたの覚えてる。抽象的に描かれてるのも、NAVAROの雰囲気がばっちり表現出来てるよね。

クラハラ: そしてyard ratのアルバム『fingerpost』のジャケット。朝焼けの色合いがすごく綺麗で、このアルバムの雰囲気にすごく合ってるよね。

なぎー: これはメンバーから最初にラフを貰ってたんだけど、それでもやっぱりすごく時間がかかっちゃって・・・。絵を描く人ってある程度は自分の描き方みたいなのが定まってくるんだろうけど、基本的に私はそういうのがないから・・・。沢山悩んで、それで出来た最初のイラストはもっと暗い色合いでドヨーンって感じだった。それでメンバーからはオッケーを貰ってたんだけど、やっぱり納得いかなくて描き直させてもらったんだよね。納期もだいぶ遅れてたのに・・・。それから一回全部潰しちゃって、色を重ねて、重ねて、重ねて、重ねまくったら最終的にこうなった。朝焼けの日が昇る場面にしたのもこの時だから、最初に出来たイラストとは雰囲気も全然違うんだよね。一日の始まりっていうか、これから始まるみたいな雰囲気のあるアルバムだし、いい感じに出来て良かった~。

クラハラ: yard ratはこれが1stアルバムだし、タイチ君(デュビア80000cc、yard rat、sniff)がメンバーになって最初の音源だったしね。それにさっきのデザインと作品の話しだと、これはなぎーの作品としての良さもあるよね。

なぎー: yard ratの世界観を表現しようとするには作品性があった方が良かったのかもしれない。最初にもらったラフの時点で、犬を散歩してる人とアルバムのタイトルになってるfingerpost(道標)が描かれてたから、そのシーンの背景というか物語性みたいなものを表現したかったんだと思う。それに描き方も、絵を描いてるときの私の描き方だしね。自分の作品を描いてるときの描き方。

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クラハラ: 何かこれからやってみたいことや興味があることはある?

なぎー: 正直、今は仕事が忙しくて・・・そんなこと考える余裕がなさすぎる・・・。ライブにも全然遊びに行けてなかったし・・・ここ半年くらい本当に何もしてなかったかも。それに今は純粋に世の中が生きづらいし・・・。色々難しいよね。明日は選挙(衆院選)行かないとだし。今は癒しが欲しいね。癒し。サウナに行きたい。アウフグースで熱波浴びたい。それと運動かな。しばらく仕事が忙しすぎてずっと机に張り付いてたから、体を動かしたいかも。運動すると一旦頭の中が空っぽになるからだいぶ楽になるし、運動不足も解消したいし。ていうか今一番興味があることって転職かもしれない。さすがに今の環境がしんどくて・・・。

クラハラ: なぎーはデザイナーとして独立する気はないの?

なぎー: 独立・・・。独立した知り合いもいるし、そういう人たちに話しだけでも聞いてみたいって思ったりはするけど・・・。今のデザインの仕事を始めて5年経って、自信も少しついてきたし。でも独立ってどうなんだろう。自営業ってどんな感じ?

クラハラ: んー、おれの話しはあんまり参考になんないかも・・・。夢のないことばっかり言っちゃいそうだし・・・(笑)

なぎー: そっかー。

クラハラ: いまハマってるものやおすすめはある?漫画とか熊本のバンドとか。

なぎー: 漫画は最近好きで読んでた作品はほとんど連載が終わっちゃったんだよねー。『違国日記』とか『ダンジョン飯』とか。あっ『ほしとんで』って作品はおすすめだよ。俳句の漫画なんだけど、キャラも内容も濃くてすごく面白い。
熊本のバンドはみんな好きだけど、やっぱりまずはデュビア80000ccかな。ライブを始めた頃からずっと観てるけど、どんどん凄くなってきてるよね~。オルタナとクラブシーンを繋いでるようなバンドっていうか・・・でも曲は不思議な感じだし。他にはWendy York Standとか日直とか。色んなジャンルのバンドが増えてきた感じがする。熊本のバンド以外だと、GOFISHはずっと大好き。今年出たアルバムもずっと聴いてる。

クラハラ: なぎーはこれまで熊本や九州のライブハウスのシーンやフロアの雰囲気を観てきたと思うんだけど、もっとこうなればいいなって思うことは何かある?

なぎー: えっ何、その質問・・・怖い・・・(笑) そんなのわかんないよー。私は純粋に客として楽しめたら嬉しいって感じだし・・・。でもNAVAROは(熊大)ロッ研のバンドがいっぱいライブをするようになって、色んな人が観に来やすい雰囲気になってきてる感じはするよね。前のNAVAROはもっと怪しい雰囲気だったと思うし・・・(笑) このままフラットな感じで色んな人が来やすい雰囲気になっていくのも勿論最高なんだけど、たまに昔の怪しい雰囲気がちょっと恋しかったりもする。とりあえず私はもっとよくわからないライブが観たいかな(笑)



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[PROFILE]
1989年熊本県生まれ。高校~短大で美術を学び、卒業後は書店員・飲食店などアルバイトを転々としながら絵を描く。2019年に商業デザイナーへ転職。これまでの制作物はチラシやパンフレット等の印刷物・Webデザイン・お菓子のパッケージ・看板サイン・イラストなど。個人では音楽イベントのフライヤーやCDジャケット、店舗ロゴなどのデザインを制作。 音楽と漫画とお酒がとても好きです。

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